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東京地方裁判所 昭和50年(ワ)5158号 判決 1979年2月13日

原告 佐藤たか子 外七名

被告 日本道路公団 外二名

主文

一  被告高橋安治、同大長俊夫は、各自、原告佐藤たか子に対し金一六八七万円、原告山口已之助、同山口ヒサそれぞれに対し各金八四九万円、原告伊阪得男に対し三四七万円、原告伊阪良夫、同伊阪正子、同伊阪尚、同伊阪まり子それぞれに対し各金一七三万円及びこれらに対する被告高橋安治については昭和五〇年八月三〇日、被告大長俊夫については昭和五〇年六月二六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らの被告高橋安治、同大長俊夫に対するその余の各請求及び被告日本道路公団に対する各請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告佐藤たか子、同山口已之助、同山口ヒサと被告高橋安治、同大長俊夫との間に生じたものは、これを五分し、その一を原告佐藤たか子、同山口已之助、同山口ヒサの、その余を被告高橋安治、同大長俊夫の負担とし、原告伊阪得男、同伊阪良夫、同伊阪正子、同伊阪尚、同伊阪まり子と被告高橋安治、同大長俊夫との間に生じたものは、これを二分し、その一を原告伊阪得男、同伊阪良夫、同伊阪正子、同伊阪尚、同伊阪まり子の、その余を被告高橋安治、同大長俊夫の負担とし、原告らと被告日本道路公団との間に生じたものは全部原告らの負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自、原告佐藤たか子に対し金二一八九万円、原告山口已之助、同山口ヒサに対し各金一〇四四万円、原告伊阪得男に対し金六六八万円、原告伊阪良夫、同伊阪正子、同伊阪尚、同伊阪まり子に対し各金三三四万円及び右各金員に対する昭和四九年八月二五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  第1項につき仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

3  被告日本道路公団については担保を条件とする仮執行免脱の宣言

第二当事者の主張

一  請求原因

1  (事故の発生)

訴外亡山口和男(以下亡和男という。)は、昭和四九年八月二五日午後三時五分ころ、小型貨物自動車(足立ま三三七八、以下原告車という。)を運転して、神奈川県横浜市緑区元石川町二四六五番地先の東名高速道路上り車線を進行中、被告高橋安治(以下被告高橋という。)の運転する普通貨物自動車(静岡一一ろ九一五四、以下被告車という。)に追突接触され、その衝撃により、原告車は中央分離帯を越えて下り車線に押し出され、折から下り車線を進行してきた訴外渡辺富美雄の運転する普通貨物自動車(相模五五め一四〇四、以下渡辺車という。)と衝突し、亡和男及び原告車に同乗していた訴外亡伊阪やすよ(以下亡やすよという。)は同日死亡し、同じく原告車に同乗していた原告佐藤たか子(以下原告たか子という。)は負傷した。

2  (責任)

(一) 本件事故は、被告高橋が、被告車を運転して事故現場の上り車線の第一通行帯を進行中、前方を注視していなかつたため先行車の後方約七メートルに接近して追突の危険を感じ、狼狽して後方の安全を充分確認せず、直ちに右にハンドルを切つて衝突を避けようとしたが、ハンドル操作が急激でかつ、路面に降雨が溜つて滑りやすい状態にあつたためスリツプして第二通行帯を越えて第三通行帯まで滑走し、ハンドルを右に切つて被告車との衝突を避けようとした原告車の左前部バンバー付近に被告車の右前部フエンダー付近を衝突させ、その衝撃により原告車が下り車線に進入したために発生したもので、同被告には前方不注視等の過失があるものというべきであり、同被告は民法七〇九条に基づき後記損害を賠償すべき義務がある。

(二) 被告大長俊夫(以下被告大長という。)は、本件事故当時被告車を所有し、自己のため運行の用に供していたものであるから、自動車損害賠償保障法三条に基づき後記損害を賠償すべき義務がある。

(三) 被告日本道路公団(以下被告公団という。)は、本件道路の管理者であるが、次のとおり本件道路の設置若しくは管理に瑕疵があり、そのため本件事故が発生したものであるから、同被告は国家賠償法二条又は、民法七一七条に基づき後記損害を賠償すべき義務がある。

本件事故は、東名高速道路上り車線において、被告車に衝突された亡和男運転の原告車が中央分離帯縁石にほぼ三五度の角度で衝突して飛び上がり、ガードロープを背面から飛び越し、最上段のガードロープを左後輪スプリングに巻き込んで対向車線第三通行帯に落下し、下り車線を高速で走行してきた渡辺車と衝突したために発生したものであるところ、東名高速道路は、高速自動車国道法に基づき建設された高速自動車国道で、走行車両は時速一〇〇キロメートルもしくはそれに近い速度で走行するのが通常であるから、進行車両の前方に対向車両が出現すれば衝突は免れないばかりか大惨事となる可能性が大きいのであるから、高速道路の管理者としては、一方の車線上で接触事故が発生した場合、その反動で事故車が反対車線上に進入するのを防止するのに充分な上下車線を区分する設備を設置すべき義務があるものというべきである。

ところが、本件道路においては、右設備として道路中央部分に中央分離帯(幅三メートル)が設置されているものの、中央分離帯と上下各車線との境を成している縁石は、高さ二五センチメートル、厚さ一五センチメートル、角度九〇度のいわゆるバリヤー型縁石といわれるもので、縁石と縁石との間には高さ一五ないし二〇センチメートルの盛土がなされ、中央部の高さは路面から約四五センチメートルであり、その盛土の表面には芝生と高さ一・五メートルのねずみもちの木が植栽されている外、中央分離帯の中央線上には六メートル間隔に直径一八センチメートルのガードロープ支柱が立てられ、その支柱間には鋼鉄製のガードロープが五本張られているが、その最上端の高さは路面から約七〇センチメートルで、しかも右ガードロープは片面すなわち下り車線側にのみ一重に張られている。

しかして、右バリヤー型縁石には走行車両の乗り越しの防止、衝突車両の方向修正の効果はほとんどないばかりか、むしろ、この高い構造が路外逸脱の際に起る衝突車両の転倒、防護柵の乗り越し事故の原因となるという欠陥を有しており、被告公団は、昭和四三年ころ、既に右バリヤー型縁石の欠陥を十分認識し、東名高速道路第二次工事区間においては、安全性の高い高さ一二センチメートル、四五度の角度をもつた、いわゆるマウンタブル型縁石を用いている。

また、本件現場のような片面式のガードロープは、背面からの車両の衝突を全く考慮せずに設計されたもので、右片面式ガードロープは<1>背面からの衝突により突破されたり、支柱が数多くなぎ倒される事故が多い、<2>支柱の強さとロープ部の強さが不均衡なためロープ部の変形や張り出しが局部的に大きく起り、ポケツテイング、乗越しの原因となり対向車線への影響も大きく、変形が大きくなるとロープ部の高さが低くなり乗越ししやすい、<3>車の車輪が直接支柱に衝突するため特に乗用車の場合に車の被害が大きい等の各欠陥を有している。本件において、縁石がバリヤー型でなくマウンタブル型のものであれば、本件のような飛び上がり現象を防ぎ得たはずであり、また、防護柵が片面式ガードロープでなく両面式ガードロープで、かつ、バリヤー型縁石の有する飛び上がり現象の危険性を考慮して必要な高さを有していれば、ガードロープが外れて対向車線内へ飛び込むという事故は避け得たはずである。したがつて、右の諸点において本件中央分離帯は高速道路の中央分離帯として欠陥を有していたものといわなければならない。

3  (損害)

(一) 亡和男の死亡に伴う損害

(1)  逸失利益

亡和男は本件事故当時三七歳で、父の原告山口已之助(以下原告已之助という。)、実弟の訴外山口幸男(以下訴外幸男という。)と共に、機械部品加工業を営んでいたが、死亡した年の前年である昭和四八年における右営業の総収入は金六一二万二〇一二円で、アルバイト従業員の給与金一二万三五五〇円、経費金一五二万八六二二円をそれぞれ右総収入額から控除すると、同年の利益額は金四四六万九八三〇円となるところ、右営業に対する寄与率は、亡和男が五〇パーセント、訴外幸男が四〇パーセント、原告已之助が一〇パーセントとみるべきであるから、亡和男の稼働能力は昭和四八年当時で金二二三万四九二〇円と評価され、これは、同年度の賃金センサス第一巻第一表の全産業計、企業規模計、全学歴計、男子労働者三五ないし三九歳の平均賃金額である金一八七万八二〇〇円よりも金三五万六七二〇円高いから、もし同人が本件事故により死亡しなければ、六七歳に達するまで毎年少なくとも、昭和四九年から同五一年までは、同人の年齢に対応する各年度の賃金センサス(全産業計、企業規模計、学歴計、男子労働者欄)、昭和五二年以降は、同人の年齢に対応する同年度の賃金センサス(前同欄)の各年収額と同程度の収入を得たはずで、生活費として右収入の三割五分を控除し、さらに昭和五三年以降の分については同年以降年五分の割合による中間利息をライプニツツ方式により控除して亡和男の死亡による得べかりし利益喪失による損害を求めると、その額は金三七五九万円(一万円以下切り捨て)となる。

(2)  相続

原告たか子は亡和男の妻、原告已之助、同山口ヒサ(以下原告ヒサという。)は亡和男の父母であり、それぞれ法定相続分に応じ右(1) の損害賠償債権を原告たか子は二分の一、原告已之助、同ヒサは各四分の一ずつ相続により取得した。

(3)  葬儀費用

原告たか子、同已之助、同ヒサは、亡和男の葬儀を執り行ない、その費用として少なくとも金四〇万円を支出したが、原告たか子は右金額の二分の一、同已之助、同ヒサは各四分の一ずつ負担した。

(4)  慰籍料

亡和男は、山口家の中軸として家業の隆盛をはかるべく期待されていたもので、妻である原告たか子の悲しみはもとより、父母である原告已之助、同ヒサの悲しみも大きく、これが慰籍料は原告たか子について金五〇〇万円、同已之助同ヒサについて各金二五〇万円が相当である。

(5)  損害の填補

原告たか子、同已之助、同ヒサは自動車損害賠償責任保険から金一〇〇〇万円を受領したので、これを前記相続分に応じ、原告たか子は金五〇〇万円、同已之助、同ヒサは各金二五〇万円、それぞれ右損害賠償債権の一部に充当した。

よつて、亡和男死亡による損害中未だ填補されない額は、原告たか子について金一八九九万五〇〇〇円、同已之助、同ヒサそれぞれについて各金九四九万七五〇〇円である。

(二) 原告たか子の負傷による損害

(1)  付添看護料

原告たか子は、本件事故により右第三、第四、第五肋骨骨折、左第七肋骨骨折、右腓骨骨折、腰部捻挫、右膝関節拘縮の各傷害を負い、昭和四九年八月二五日から一〇月七日まで四四日間町谷原病院に入院して治療を受け、さらにその後、昭和五〇年二月二五日まで水野病院に通院して治療を受けた(内実通院六一日)が、右入院中、歩行が不能で安静加療を要するため、母である原告ヒサ等家族の付添を受けたもので、右付添費用は一日当り金二〇〇〇円として合計金八万八〇〇〇円となる。

(2)  入院雑費

原告たか子は右入院期間中、一日当り金五〇〇円の割合による合計金二万二〇〇〇円の雑費を支出した。

(3)  休業損害

原告たか子は、本件事故当時三一歳で、山口家の家事労働の中心であつたところ、本件事故により六か月間右労働に従事できなかつたもので、右の損害は、昭和四九年度賃金センサス第一巻第一表全産業計、企業規模計、学歴計、女子労働者三〇ないし三四歳の欄の金一一九万一〇〇〇円を基礎として評価すべきであり、そうするとその額は金五九万五五〇〇円となる。

(4)  慰藉料

原告たか子は、本件事故により前記のような傷害を受け、多大の精神的苦痛を被つたが、これが慰藉料は金一〇〇万円が相当である。

(5)  損害の填補

原告たか子は、自動車損害賠償責任保険から金八〇万円を受領したので、これを本件損害賠償債権の一部に充当した。

よつて、同原告の未だ填補されない損害額は金九〇万五五〇〇円である。

(三) 亡やすよの死亡に伴う損害

(1)  逸失利益

亡やすよは、本件事故当時五二歳で、伊阪家の主婦として夫と四人の子供の身の回りの世話の外、荒井紙工所でパートタイマーとして働き、昭和四八年一〇月二六日から同四九年八月二六日までの一〇か月間に金五三万七六三〇円の収入を得ていたもので、本件事故により死亡しなければ六八歳に達するまで稼働できた筈であり、その間の同人の収入は、右パートタイマーとしての収入に家事労働分を加えるとその年額は昭和四九年から同五一年までは、同人の年齢に対応する各年度の賃金センサス(全産業計、企業規模計、学歴計、女子労働者欄)、昭和五二年以降は、同人の年齢に対応する同年度の賃金センサス(前同欄)の年収額と同額であると評価するのが相当であり、生活費としてその三割を控除し、さらに昭和五三年以降分については同年以降年五分の割合による中間利息をライプニツツ方式により控除して亡やすよの死亡による得べかりし利益喪失による損害を求めると、その額は少なくとも金一七五一万七〇〇〇円となる。

(2)  相続

原告伊阪得男(以下原告得男という。)は亡やすよの夫、原告伊阪良夫(以下原告良夫という。)、同伊阪正子(以下原告正子という。)、同伊阪尚(以下原告尚という。)、同伊阪まり子(以下原告まり子という。)は亡やすよの子であり、右(1) の損害賠償債権をそれぞれ法定相続分に応じ、原告得男は三分の一、原告良夫、同正子、同尚、同まり子は六分の一ずつ相続により取得した。

(3)  葬儀費用

原告得男、同良夫、同正子、同尚、同まり子は亡やすよの葬儀を執り行ない、その費用として少なくとも金三六万円を支出したが、右費用は原告得男が三分の一、同良夫、同正子、同尚、同まり子が六分の一ずつ負担した。

(4)  慰藉料

原告得男、同良夫、同正子、同尚、同まり子は、良き妻であり母であつた亡やすよを失ない、多大な精神的苦痛を受けたが、これが慰藉料は原告得男については金三〇〇万円、原告良夫、同正子、同尚、同まり子についてはそれぞれ金一五〇万円が相当である。

(5)  損害の填補

原告得男、同良夫、同正子、同尚、同まり子は、自動車損害賠償責任保険から金八六五万円を受領したので、これを前記相続分に応じ、原告得男は金二八八万三三三三円、原告良夫、同正子、同尚、同まり子は各金一四四万一六六六円、それぞれ右損害賠償債権の一部に充当した。

よつて、未だ填補されない損害は、原告得男について金六〇七万五六六四円、原告良夫、同正子、同尚、同まり子それぞれについて各金三〇三万七八三四円である。

(四) 弁護士費用

原告らは、本件訴訟の提起、追行を原告訴訟代理人に委任し、着手金として合計金二〇万円を支払つた外、報酬として認容額の一〇ないし一五パーセントの範囲内の金員を支払う旨約したので、事故発生日時点で評価して、このうち請求金額の一〇パーセントに相当する額すなわち、原告たか子は金一九八万九五〇〇円、同已之助、同ヒサは各金九四万二五〇〇円、同得男は金六〇万四三三六円、その余の原告らは各金三〇万二一八六円を本訴において請求する。

よつて、原告らは被告らそれぞれに対し、本件事故による損害の賠償として、原告たか子は金二一八九万円、(一万円以下切捨て、以下同様)、同已之助、同ヒサは各金一〇四四万円、同得男は金六六八万円、同良夫、同正子、同尚、同まり子は各金三三四万円及びこれらに対する本件事故発生の日である昭和四九年八月二五日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  被告高橋、同大長

(一) 請求原因1の事実中、原告車が被告車に追突接触され、その衝撃で中央分離帯を越えて下り車線に押し出されたことは否認し、その余の事実は認める。

(二) 同2の(一)、(二)のうち被告車が被告大長の所有であることは認め、その余は争う。

被告高橋は、本件道路上り車線左端の第一通行帯を、時速約六、七〇キロメートルで進行中、右方に進路変更すべく、方向指示器による合図をし、後方の安全確認をしたうえ、右方に進路変更したところ、後方を進行して来た原告車が被告車の進路変更を無視し、漫然高速度のまま接近して来て自車の左前部を併進中の被告車の右側方に接触させ、その衝撃により自車を右斜め前方に暴走させるに至つたもので、本件事故は亡和男の一方的過失によるものであり、被告高橋に過失はない。

また、亡和夫は、本件事故前に訴外鈴木守方で飲酒し事故当時酩酊運転をしていたものである。

(三) 同3の主張事実はいずれも知らない。

2  被告公団

(一) 請求原因1の事実中原・被告車の接触の態様は不知、その余の事実は認める。

(二) 同2(三)のうち、本件道路中央分離帯の縁石がバリヤー型であること(ただし高さは二〇・五センチメートル)、ガードロープが片面式のものであることは認めるが、右中央分離帯の設備に瑕疵があるとの主張は争う。

原告らは、本件高速道路の中央分離帯の縁石がマウンタブル型でなくバリヤー型であり、また防護柵が両面式でなく、片面式ガードロープで、かつ必要な高さを有しなかつたから、中央分離帯として欠陥があると主張するが、右の主張は理由がない。

即ち、本件東名高速道路は、建設当時現行令が制定されておらず、旧道路構造令には高速道路が考慮されていなかつたため「高速自動車国道等の構造基準」(昭和三八年建設省道路局通達)に準拠して建設されたが、右基準による中央分離帯、側帯の幅員は道路法三〇条に基づき制定された現行の道路構造令(昭和四五年政令第三二〇号)と同様で、構造については中央分離帯は原則として車道面より高い構造とするものとすると定められていたにすぎず、また右現行令によれば、中央分離帯のうち側帯以外の部分は、縁石線又は柵その他これに類する工作物により区画するとされていて、中央分離帯には、往復交通を分離するために縁石等の工作物を設置すれば足り、防護柵(車両の逸走防止のための施設)を設置することは義務づけられていないのである。したがつて、先に建設された名神高速道路には当初防護柵が設置されていなかつたが、東名高速道路には名神高速道路における中央分離帯乗越え事故の経験を生かして防護柵が設置されたのである。

そして、縁石については、東名高速道路の第一次工事区間である東京・厚木間、富士・静岡間及び高崎・小牧間ではバリヤー型、第二次工事区間ではマウンタブル型が使用されており、現在も、この両型が混在している。これは、進行方向矯正機能、減速機能、視線誘導機能は両者とも有しているからで、バリヤー型は、低速度で衝突してくる車両に対して縁石で阻止する機能に優れ、マウンタブル型は高速で衝突してくる車両に対して防護柵で阻止するため車両を導く機能に優れているという差があるが、昭和四九年の一年間に東名高速道路の東京インターチエンジから三ケ日インターチエンジまでの間で中央分離帯に衝突した車両のうち、中央分離帯を乗り越えた車両は二・九パーセントにすぎず、本件事故現場を含む東京インターチエンジから厚木インターチエンジまでの間においては二・八パーセントで、両者間に差がないばかりでなく、片面式ガードロープについても、同年一年間において、正面から衝突して中央分離帯を乗り越えたもの三・六パーセント、背面から衝突して中央分離帯を乗り越えたものは四・七パーセントであり両者間には殆ど差はない。

また、本件道路よりも後に建設された東北自動車道においては、支柱とビームの間に間隔材をはさみ、ビームを支柱より前面に突き出したブロツクアウト型の防護柵を設置しているが、その場合の中央分離帯に衝突した車の反対車線への飛び込み阻止率は昭和五〇年、同五一年の二年間において九五・九パーセントであり、片面式ガードロープの場合と大差はない。

また、仮に本件縁石がマウンタブル型であつたとしても、本件において、原告車は時速八〇キロメートルで進行中、高橋車と接触し、押し出されるようにしてさらに加速状態となつて、ほぼ三五度の角度で中央分離帯に進入していることからして、本件事故は防ぎ得なかつたものである。

さらに、原告らは、本件ガードロープが必要な高さを有していたならば、対向車線への進入が避けられたと主張するが、それは結果論であり、前記のように三五度の角度で八〇キロメートルを超える速度をもつて進入したという事故の態様を無視するものであり、そのことは前記のように改良型防護柵の設置された東北自動車道においても、中央分離帯乗越え事故が発生していることからも明らかである。

以上のように、本件中央分離帯は、通常有すべき安全性は備えていたものであり、瑕疵があつたものということはできない。

(三) 同3の主張事実はいずれも争う。

三  被告大長主張の抗弁(免責の抗弁)

本件事故がもつぱら亡和夫の過失によるもので、被告高橋に過失がないことは前記二の1の(二)において主張したとおりであり、かつ被告車に構造上の欠陥又は機能の障害はなかつたから、本件事故発生について被告大長に法的責任はない。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は争う。

第三証拠<省略>

理由

一  亡和夫が、昭和四九年八月二五日午後三時五分ころ、原告車を運転して神奈川県横浜市緑区元石川町二四六五番地先の東名高速道路上り車線を進行中、被告高橋の運転する被告車と接触し、原告車が中央分離帯を越えて下り車線に進入し、折から下り車線を進行してきた訴外渡辺富美雄の運転する渡辺車と衝突し、亡和男と原告車に同乗していた亡やすよが同日死亡し、同じく同乗していた原告たか子が負傷したことは各当事者間に争いがない。

二  成立に争いのない甲第二〇号証、第二三ないし第三四号証、原告佐藤たか子、被告高橋安治各本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、本件事故現場は、上下線とも進行方向左側から路側帯(幅三メートル)、第一、第二、第三各方通行帯(各幅三・六メートル)、側帯(幅〇・七五メートル)から成つていて、右両側帯の間は幅三メートルの中央分離帯となつており、同中央分離帯は両端に高さ二五センチメートルのバリヤー型縁石があつてその間に土盛りがされ、その中央部では車道面から約四五センチメートルの高さとなつていて同所に高さ約七〇センチメートルの鋼鉄製がガードロープ五本が約六メートル間隔で支柱によつて下り車線側に張られているほか立木が植えられていること、路線は直線で、約五〇〇メートル先まで見とおすことができ、速度は大型乗用車及び三輪を除く普通自動車は最高時速一〇〇キロメートルその他の車両は同八〇キロメートルに制限されていること、本件事故当時は雨が降つており、路面はぬれていたこと、被告高橋は本件事故前被告車を運転して、時速約六〇キロメートルで本件道路上り車線第一通行帯を進行していたところ、前方約二一メートルを乗用車が進行していたので、これを追越そうと考え、右サイドミラーで右後方を確認したところ、約五〇メートル右後方の第二通行帯上を原告車が同方向に向け走行しているのを認識したが、右後方確認後改めて前方を見たところ、その間に予期以上に自車と先行車との車間距離が縮まり、約七メートルに接近していたので、右に急ハンドルを切つたところ、そのまま右斜め方向に滑走して行き、第二通行帯と第三通行帯の中間附近で、被告車の右前角部を、時速約八〇キロメートルで進行していたため追いついた原告車の左前部に接触させ、同接触後両車はしばらくぶつかり合いながら約二〇メートルの間並進した後、原告車が押し出されるように右斜め前方に進行し、約三五度の角度で中央分離帯に乗り上げたうえ、前記最上段のガードロープを切断し、同ロープを左後輸スプリングに巻き込んだまま下り車線に進入して行き、一方被告車も右原告車の中央分離帯乗り上げ地点から約一一・七メートルの地点で中央分離帯に乗り上げ、約二三メートル中央分離帯上を走行したうえ漸く停止したことが認められる。

被告高橋、同大長は、被告車が進路変更に際し、方向指示器による合図をした旨主張し、前掲甲第二三号証、第二九号証、第三一ないし第三四号証に同旨の記載部分がある外、被告高橋の本人尋問の結果中にも右の趣旨の供述部分があるが、原告車を運転していた亡和男は即日死亡していてその点に関する供述を得ることができず、また前掲甲第二三、第二八号証によると、原告車の八〇メートルないし一〇〇メートル右後方の第三通行帯上を追尾走行していた訴外島田克弘が被告車の方向指示器は出ていなかつた旨供述しているほか、前掲甲第二七号証によると、事故後被告車を検したところ、右後部の方向指示器の配線が切れていたことが認められ、それらの点を考えると、被告高橋の前記供述もそのまま措信せることができず、被告高橋は方向指示器による合図をしなかつたか、それとも操作はしたが点灯しなかつた疑いが強く、少くとも被告ら主張のように方向指示器による点灯がなされていたとは認め難い。

また、右被告らは、原告車がその左前部を被告車の右側方に接触させたものであると主張するが、前掲甲第二六、二七号証によると、被告車の右側部の右前部フエンダー及びステツプ取付板部に凹損があり、同部に白色塗膜が付着していたうえ、前方から六番目の荷掛ロープ金具に新しい接触痕があり、そのほか後部にもライト、ナンバープレート等が曲がつているなどの損傷があつたが、前部にも右先端部のラジエターグリル部、前部バンパーに凹みがあり、同部附近に原告車のものと思われる白色塗膜が付着していたことが認められ、前掲他の証拠と総合して結局本件において、頭初接触したのは被告車の右前角部であると認めざるを得ない。

なお、被告高橋、同大長は、亡和男は本件事故前に訴外鈴木守方で飲酒し、本件事故当時酩酊運転をしていた旨主張し、証人尾関啓三の証言中に右主張に沿う部分があるが、右部分は伝聞にすぎないうえ、証人鈴木守、同石川春次郎の右証言、原告佐藤たか子本人尋問の結果と対比してにわかに措信できず、他に亡和男が本件事故当時飲酒して酩酊運転をしていたと認めるべき証拠はないので、右主張は採用しない。

そして、以上認定事実を総合するならば、結局本件事故は、被告高橋が進路変更に際し、後方確認に気を奪われて先行車との車間距離が縮まつたのに気づくのが遅れ、追突を避けるため方向指示器を操作しないかないしは操作はしたが点灯しないまま右に急ハンドルを切つて進路変更しようとしたため原告車と接触し、これを右前方に押し出したため発生したものと認めざるを得ない。

そうだとするならば、本件において被告高橋に前方不注視、車間距離不保持、ならびにハンドル操作不適切等の過失があつたことは明らかであるから、同被告は民法七〇九条により原告らに対し、後記損害を賠償すべき義務がある。

三  また、被告大長が被告車を所有していたことは当事者間に争いがなく、他に特段の主張立証もないから、同被告は自動車損害賠償保障法三条の運行供用者にあたるものというべきである。

同被告は右法条但書による免責を主張するが、本件において被告高橋に過失のあつたことは前記認定のとおりであるから、被告の右主張はその余の点を判断するまでもなく、理由がないものといわざるを得ない。したがつて、同被告もまた右法条により本件事故によつて生じた損害を賠償すべき義務があるものというべきである。

四  次に被告公団の責任の存否について判断する。

被告公団が本件高速道路の管理者であることは、同被告において明らかに争わないから自白したものとみなすべきである。

しかして、本件事故現場附近の道路及びその中央分離帯の構造は前記認定のとおりであり、そのうち中央分離帯の縁石がバリヤー型で、ガードロープが片面式のものであることは、右被告の認めるところである。

原告らは、まず右の点が欠陥であると主張するので、その点について判断するに、成立に争いのない甲第三七号証の一ないし六、乙第一ないし第五号証、第八号証の一ないし一二及び証人藤野徹、同木倉正美の各証言によると、中央分離帯は上下車道の交通分離、側方余裕の保持、車道端又は線形の明示、対向車の眩光防止、Uターン防止、排水等の施設設置の場所としての機能と共に、他の正常な車両の安全確保(中央分離帯進入車が対向車道へ突入することの防止及び原車道へ復帰する場合、他の正常に進行している車両との衝突や交通障害となることの防止)、中央分離帯進入車の乗員の安全確保(中央分離帯進入車を分離帯内で停止又はコントロールを回復させ、原車道へ復帰させる)という、車両事故が発生した場合にその被害を最少限に防止し、又は二次災害を防止する機能を持つことを予定して設置されるもので、そもそも走行車両の反対車線への進入を完全に防止するためには上下車線間に幅広い空間を設けるか、上下車線間の防護柵や防護設備を強固なものにすることによつて物理的には可能であるが、前者については我国のような狭隘な国土では実現が難しく、後者についても建設費の高謄等経済的負担が増大する反面、かえつて衝突した車両の乗員に危険が及ぶと考えられ、結局適当な幅をもつた分離帯を設け、防護柵等も弾力性をもつたものとせざるを得ないこと、我国においては昭和三三年ころから建設が開始された名神高速道路において初めて高速道路における中央分離帯が導入されたが、その際、縁石としては高さ二五センチメートルを限度とし、縁石前面角度を九〇度近い角度としたバリヤー型縁石を用い、三メートルの幅に盛土をして中央分離帯とし、その上に植樹をしたのみで、防護柵は設置しなかつたところ、使用を開始してみると中央分離帯に衝突した車両のうち二五パーセント程度が反対車線へ進入するという事実が明らかとなつたため、その後道路の外側に設置していた防護柵と同様の防護柵を中央分離帯にも設置したところ、反対車線に進入する車両が五パーセント程度に減少したところ、そして、昭和三七年に建設が開始された東名高速道路第一次工事区間、即ち本件事故現場を含む東京、厚木間、富士、静岡間、岡崎、小牧間の合計一二七・六キロメートルにおいては、中央分離帯にバリヤー型縁石と片面式ガードロープが採用されたが、その後バリヤー型縁石の衝突車両阻止機能に疑問がもたれるようになり、昭和四三年から被告公団の委託により日本道路協会の中に設けられていた中央分離帯構造委員会において研究が行なわれ、その結果、縁石については、高さ二五センチメートルを限度とした場合、衝突車両のタイヤを破損する形状にした場合にのみ低速度で衝突した車両の方向制御機能が期待できるものの、それ以外の形状では縁石のみによる衝突車両の方向制御機能は期待できず、中央分離帯衝突車両は防護柵において阻止せざるを得ないこと、更にバリヤー型のような高い構造とした場合には車の飛び上がり現象が顕著に生じるため、運転者がハンドルをとられたり車が横転する原因となるおそれがあり、飛び上がり現象を生ぜずに車を分離帯に誘導する縁石の形状としては高さ一二センチメートル、前面の角度四五度のマウンタブル型縁石が望ましいとの結論が出たので、東名高速道路の第二次工事区間においては、マウンタブル型縁石と片面式ガードロープが設置されたこと、また前記中央分離帯構造研究会の研究によると片面式防護柵では、<1>支柱の強さとビームの強さが不釣合のためビームの変形が局部的に起り易く、衝突したビームの一部が凹み、ビームによつては衝突した車の誘導が出来なくなる、いわゆるポケツテイングや乗越しの原因となるのみならず、変形が大きくなるとビームの高さが低くなるため乗越しを起し易い、<2>車の車輪が直接支柱に衝突するために、特に乗用車の場合に車の被害が大きく、背面からの衝突に弱い等の欠点があることが指摘され、最新の東北自動車国道においては、車両の衝突面を受けるビーム又はケーブルの前面が支柱よりも前に突き出したブロツクアウト両面型のガードレールが用いられたことが認められ、他に右認定を左右する証拠はない。

右認定事実によると、高速道路の中央分離帯としては、マウンタブル型縁石及びブロツクアウト両面型防護柵を用いることが望ましく、その点において本件高速道路に瑕疵があるかの如くにみられないこともない。

しかしながら、本件のようなバリヤー型縁石及び片面式ガードロープから成る中央分離帯といえども、上下車道の交通分離、車道端の明示等の機能を果していることは明らかなところであり、しかも、前記認定のように、高速道路の中央分離帯の構造としてマウンタブル縁石等が望ましいとの研究結果が出たのは本件事故現場を含む合計一二七・六キロメートルにわたる第一工事区間の工事後であり、もちろんことは人命に関することであるから、もし両者の機能上の差が著しいのであれば、多額の費用がかかるとしても、その費用を投じても従前のものを取替えることが望ましいことであろうが、前記認定のように中央分離帯構造委員会の研究結果では縁石の高さが二五センチメートル以下の場合バリヤー型、マウンタブル型いずれにしても方向制御機能は期待できないとされているうえ、前掲乙第一ないし第五号証、成立について争いのない乙第六号証の一、二、証人藤野徹の証言により真正に成立したものと認められる乙第七号証、証人木倉正美の証言により真正に成立したものと認められる乙第九号証、証人藤野徹、同木倉正美の各証言を総合すると、昭和四九年に東名高速道路における中央分離帯に衝突した車両は、バリヤー型縁石を用いた第一期工事区間である東京、厚木間においては一四三台あるが、そのうち中央分離帯の防護柵を乗り越え反対車線内で停止したものは四台で、率にして二・八パーセントであること、またマウンタブル縁石を用いた第二期工事区間である厚木、三ケ日間(なお、そのうち、富士、静岡間は前記のとおり第一期工事区間である。)においては、中央分離帯に衝突した車両は六七七台あるが、そのうち中央分離帯の防護柵を乗り越え反対車線内で停止したものは二〇台で、率にして二・九五パーセントであること、また、昭和四九年東名高速道路東京、厚木間における片面式ガードロープに対する車両の衝突事故は九九台あり、そのうち正面から衝突したもの五六台、背面から衝突したものは四三台で、右のうち、防護柵を乗り越えて反対車線内で停止したものは正面からの衝突によるもの、背面からの衝突によるもの各二台で、率にすると、それぞれ三・五七パーセント、四・六五パーセントとなること、昭和五〇年、同五一年の名神高速道路(西宮、小牧間)、東名高速道路(厚木、小牧間)、東北高速自動車国道(鹿沼、郡山間)における中央分離帯と衝突した車両のうち、中央分離帯を乗越えたもの及びさらに対向者と接触衝突したものの割合を調査したところ、それぞれ両年の平均値は、四・九パーセント、四・三パーセント、四・一パーセントであつたことが認められ、以上の事実によると、バリヤー型縁石を用い片面式ガードロープを防護柵として使用した場合とマウンタブル型縁石を用い両面式ブロツクアウト型防護柵を用いた場合とで、中央分離帯進入車両に対する阻止機能上の実際上の差異は微々たるものにすぎず、バリヤー型縁石と片面式ガードロープを併用したものも中央分離帯衝突車両に対して充分な阻止機能を有していることが認められる。

さらに、原告らは、本件においてガードロープが必要な高さを有しなかつた欠陥があると主張する。

しかしながら、証人木倉正美の証言によると、防護柵設置要綱では防護柵の種別によつて異なるが、その高さは路面から九〇センチメートルないし一メートルと定められていることが認められるとともに、右証人の証言にもあるように、倒れた場合の危険性からして自ら高さに制限のあることは明らかであるところ、本件ガードロープにおける最上段のロープの高さが車道面から約一・一五メートルであることは前記認定のとおりであるから、高さとして不十分とはいえず、また本件全証拠を検討しても、本件ガードロープの高さが本件事故との間に因果関係を有すると認めるべき証拠もない。

そうだとするならば、本件高速道路の中央分離帯にバリヤー型縁石及び前記認定の高さの片面式ガードロープを用い、またその後これをマウンタブル型縁石及び両面式ブロツクアウト型防護柵に取替えなかつたことをもつて、本件道路が高速自動車道路として通常有すべき安全性を有していなかつた、ひいては、道路の設置管理に瑕疵があつたものということはできない。よつて、その余を判断するまでもなく、原告らの被告公団に対する請求は理由がないものといわなければならない。

五  そこで、被告高橋、同大長の関係で判断を進め、損害の点について判断することとする。

1  亡和男の死亡による損害

(一)  逸失利益

成立に争いのない甲第六号証、原告山口幸男本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第八号証、第四一、第四二号証、原告佐藤たか子、同山口巳之助、同山口幸男各本人尋問の結果によると、亡和男は本件事故当時三六歳で、中学卒業後東芝製鋼に約九年間勤務し、昭和三九年ころからは、弟の原告幸男とともに実父の原告巳之助が昭和三三年ころから自宅で経営していたポンプ部品加工業を手伝い、本件事故当時は原告巳之助、亡和男、原告幸男の三名で仕事をしていたが、原告巳之助が六九歳の高齢であり、亡和男が東芝製鋼在職中に旋盤等の技術を身につけていたうえ、独り自動車の運転免許を有していたところから同人が右家業の中心となつていたこと、右営業は近所、親戚の依頼によるものもあつたが、主として上田鉄工所からの注文で昭和四八年の同鉄工所に対する売上総収入は金六二四万二六一〇円であつたこと、そして経費面では、昭和四八年の所得税青色申告書では、訴外後藤光明、同大内征司の二名に対するアルバイト料金一二万三五五〇円を含めて金一五二万八六二二円の経費を要したことになつているが、右訴外人らは架空人物で、また専従者とされている亡和男の弟である訴外山口隆男も実際には稼働していないし、給与も支払われていなかつた他、各項目共水増しして申告していたこと、また、原告幸男、亡和男らに対しても給料は支払わず、収益は家族全体で必要に応じ分配していたこと、本件事故後は訴外隆男が家業を手伝つているが、総収入は金二〇〇万円程度減つていることが認められ、以上の事実によれば、本件事故当時の右家業による収益額は少なくとも金四四六万九八三〇円であり、そのうちの五割が亡和男の寄与によるものとみるのが相当であるところ、右の額は、裁判所に顕著な同人の年齢に対応する昭和四八年度賃金センサス(全産業計、企業規模計、全学歴計、男子労働者平均賃金)を上回つているから、亡和男は本件事故で死亡しなければ六七歳に達するまで稼働し、毎年賃金センサスの右欄記載の年収額と同程度の収益をあげたであろうことが推認され、したがつて、昭和四九年から同五一年までは同人の年齢に対応する各年度の賃金センサス(前同)により、昭和五二年からは同人の年齢に対応する同年度の賃金センサス(前同)により、それぞれ収益を算出し、右収益額から亡和男の生活費として右収益の三割五分を控除し、さらに年五分の割合による中間利息をライプニツツ方式により控除すると亡和男の死亡による得べかりし利益喪失による損害の死亡時の現価は別紙計算書(一)のとおり、金三〇五一万五六四八円となる。

(二)  相続

前掲甲第六号証、成立について争いのない甲第五号証によると、原告たか子は亡和男の妻であり、原告巳之助、同ヒサは亡和男の父母でありそれぞれ亡和男の相続人であること、亡和男には右原告ら以外には相続人はいないことが認められるから、右原告らはそれぞれ法定相続分に応じ右(一)の損害賠償債権を、原告たか子は二分の一、原告巳之助、同ヒサは各四分の一ずつ相続により取得したものというべきである。

(三)  葬儀費用

原告山口巳之助本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第三八号証、同原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、原告たか子、同巳之助、同ヒサは亡和男が本件事故により死亡したためその葬儀を営み、金四〇万円を越える金額を支出したこと、そして、右金額を原告たか子において二分の一、同巳之助、同ヒサにおいて各四分の一負担したことが認められ、亡和男の年齢、社会的地位等からすると、葬儀費用として認容すべき額は、原告たか子につき金二〇万円、同巳之助、同ヒサにつきそれぞれ金一〇万円と認めるのが相当である。

(四)  慰藉料

原告佐藤たか子、同山口巳之助各本人尋問の結果によると、原告たか子、同巳之助、同ヒサは本件事故により夫であり、子である亡和男を失ない多大の精神的苦痛を被つたことが認められ、右苦痛に対する慰藉料は、本件における諸般の事情を斟酌するならば原告たか子について金五〇〇万円、同巳之助、同ヒサそれぞれについて金二〇〇万円が相当である。

(五)  損害の填補

原告たか子、同巳之助、同ヒサは自動車損害賠償責任保険金一〇〇〇万円を受領し、前記相続分に応じ右損害賠償債権に対する内払として原告たか子は金五〇〇万円同巳之助、同ヒサはそれぞれ金二五〇万円を充当したことと右各原告らの自認するところであるから、右原告らの亡和男死亡に伴う損害中未だ填補されない損害は、原告たか子について金一五四五万七八二四円、同巳之助、同ヒサそれぞれについて各金七二二万八九一二円となる。

2  原告たか子の負傷による損害

(一)  家族の附添看護料

原本の存在について当事者間に争いがなく、その成立についても原告佐藤たか子本人尋問の結果によつて認められる甲第九号証、第一二号証及び同原告本人尋問の結果によると、原告たか子は本件事故により右第三、第四、第五肋骨骨折、左第七肋骨骨折、右腓骨骨折、腰部捻挫右膝関節拘縮の傷害を負い、昭和四九年八月二五日から同年一〇月七日までの四四日間、町谷原病院で入院治療を受け、その間原告ヒサ初め右原告の姉妹が一日四、五時間ずつ交替で附添看護をしたことが認められるが、一方右本人尋問の結果によると、右の間職業的家政婦も附添看護していたことが認められ、右家族等の附添が右のように一日のうち数時間に過ぎないうえ同原告の年齢、病状等からして職業的附添婦の外に家族の附添が必要止むを得ないものであつたことは考えられないから、右家族等の附添費用を損害として請求することはできないものというべきである。

(二)  入院雑費

前記認定事実に加え弁論の全趣旨によると、原告たか子は、右入院期間中、毎日相当額の雑費を支出したことが認められ、その額は、一日当り金五〇〇円の割合による合計金二万二〇〇〇円とみるのが相当である。

(三)  休業損害

前掲甲第九号証、原本の存在について争いがなく、成立についても原告佐藤たか子本人尋問の結果によつて認められる甲第一〇号証、同原告本人尋問の結果によると原告たか子は、本件事故により前記のような傷害を負い事故後昭和四九年一〇月七日まで町谷原病院へ入院して治療を受け、同月一一日から肋骨の癒合不十分、右膝関節拘縮、腰痛等の治療のため昭和五〇年二月二五日まで六一日(実通院日数)水野病院に通院し、同日右傷害は完治したこと、同原告は本件事故当時三〇歳で、山口家の家事労働の中心としてこれに従事していたところ、本件事故により前記傷害の治癒するまでの六か月間は家事労働に従事できなかつたことが認められ、右期間の原告たか子の右家事労働の金銭価値は、右原告の年齢に対応する昭和四九年度賃金センサス(全産業計、企業規模計、女子労働者学歴計欄)と同程度の額であると評価するのが相当であり、そこで、当裁判所に顕著な昭和四九年度賃金センサスの右欄の金額(年額金一一九万一〇〇〇円)を基礎にこれを算出すると、右原告の右休業損害は、金五九万五五〇〇円となることは計数上明らかである。

(四)  慰藉料

原告たか子は本件事故により前記のような傷害を受け多大な精神的苦痛を被つたことは容易に推認されるところであり、右苦痛に対する慰藉料は金六〇万円が相当である。

(五)  損害の填補

原告たか子は自動車損害賠償責任保険から金八〇万円の支払を受け、これを本件損害賠償債権に対する内払として充当したことは同原告の自認するところであるから、同原告の未だ填補されない損害は金四一万七五〇〇円である。

3  亡やすよの死亡による損害

(一)  逸失利益

成立について争いのない甲第二二号証、原本の存在について争いがなく、その成立についても原告伊阪得男本人尋問の結果によつて認められる甲第一三号証及び同原告本人尋問の結果によると、亡やすよは本件事故当時五二歳で、家庭の主婦として家事労働に従事するかたわら、昭和三五年ころからパートタイマーとして働き、昭和四八年一〇月二六日から本件事故時まで荒井紙工所に勤務して、その間の一〇か月分の給与として合計金五三万七六三〇円の支給を受けたことが認められ、以上の事実によれば、亡やすよは六七歳に達するまで家庭の主婦として家事労働のかたわらパートタイマーとして働くことが可能で、右家事労働並びにパートタイム労働の金銭的価値は毎年賃金センサスと同程度の額であると評価するのが相当であるから、昭和四九年から同五一年までは同人の年齢に対応する各年度の賃金センサス(全産業計、企業規模計、全学歴計、女子労働者平均賃金)により、昭和五二年からは同人の年齢に対応する同年度の賃金センサス(前同)によつて、それぞれ所得額を算出し、右の額から生活費として右金額の四割を控除し、さらに年五分の割合による中間利息をライプニツツ方式により控除すると、亡やすよの死亡による得べかりし利益喪失による損害の死亡時の現価を求めるとその額は別紙計算書(二)記載のとおり、金八八一万四三七四円となる。

(二)  相続

原本の存在及び成立について争いのない甲第七号証ならびに弁論の全趣旨によると、原告得男は亡やすよの夫原告良夫、同正子、同尚、同まり子はいずれも亡やすよの子で、それぞれ亡やすよの相続人であり、同原告ら以外には亡やすよの相続人はいないことが認められるから、右原告らはそれぞれ法定相続分に応じ、右(一)の損害賠償債権を原告得男は三分の一、同良夫、同正子、同尚、同まり子は各六分の一ずつ相続により取得したものというべきである。

(三)  葬儀費用

原告伊阪得男本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第三九号証、同原告本人尋問の結果によると、亡やすよが本件事故により死亡したため、原告得夫、同良夫、同正子、同尚、同まり子においてその葬儀を執り行ない、その費用として金三六万円を超える額を支出したこと、そして、右金額を原告得男において三分の一、その余の同原告らにおいて各六分の一負担したことが認められ、亡やすよの年齢、社会的地位等からすると、葬儀費用として認容すべき額は、原告得男につき金一二万円、その余の同原告らはそれぞれ金六万円と認めるのが相当である。

(四)  慰藉料

原告伊阪得男本人尋問の結果によると、原告得男、同良夫、同正子、同尚、同まり子は本件事故により妻であり母である亡やすよを失ない多大の精神的苦痛を被つたことが認められ、右苦痛に対する慰藉料は本件における諸般の事情を斟酌するならば、原告得男について金三〇〇万円、原告良夫、同正子、同尚、同まり子それぞれについて各金一五〇万円が相当である。

(五)  損害の填補

原告得男、同良夫、同正子、同尚、同まり子は自動車損害賠償責任保険から金八六五万円の支払を受け、本件損害賠償債権に対する内払として原告得男は金二八八万三三三三円、原告良夫、同正子、同尚、同まり子はそれぞれ金一四四万一六六六円を充当したことは右原告らの自認するところであるから、右原告らの未だ填補されない損害は原告得男について金三一七万四七九一円、その余の同原告らそれぞれについて各金一五八万七三九六円である。

4  弁護士費用

証人山口幸男の証言及び弁論の全趣旨を総合すると、原告らは本件訴訟の提起、追行を原告ら訴訟代理人に委任し着手金として合計金二〇万円を支払つた外、報酬として取得金額の一〇ないし一五パーセントの範囲内の金額を支払う旨約していることが認められるが、本件事案の性質、審理の経緯、認容額等に鑑みると、被告高橋、同大長に賠償を求め得る弁護士費用は原告たか子について金一〇〇万円原告巳之助、同ヒサそれぞれについて金五〇万円、原告得男について金三〇万円、原告良夫、同正子、同尚、同まり子それぞれについて金一五万円が相当である。

よつて原告らの未だ填補されない損害は原告たか子は金一六八七万円(一万円未満切捨て、以下同じ)、原告巳之助、同ヒサは各金七七二万円、原告得男は金三四七万円、原告良夫、同正子、同尚、同まり子は各金一七三万円となる。

六  以上のとおりであるから、原告らの本訴請求は、原告らの被告高橋、同大長それぞれに対し、原告たか子は金一六八七万円、原告巳之助、同ヒサは各金七七二万円、原告得男は金三四七万円、原告良夫、同正子、同尚、同まり子は各金一七三万円及びこれに対する本件訴状送達の翌日であることが記録上明らかな被告高橋については昭和五〇年八月三〇日、被告大長については昭和五〇年六月二六日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度でこれを認容し、原告らの被告高橋、同大長に対するその余の請求及び被告公団に対する各請求はいずれも理由がないので失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 小川昭二郎 片桐春一 金子順一)

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